寒冷療法

急性外傷に対する応急処置としてRICE処置が有名です。

 

Rest(安静)

Ice(冷却)

Compression(圧迫)

Elevation(挙上)

 

の頭文字です。

 術後の患者様に対し、リハビリ介入をするとアイシングを行うこともあるかと思います。昔から腫脹や痛みに対して雪などを利用した冷却方法は行われていたようで、遡ると古代ギリシャ・ローマ時代でも行われていたそうです。そこで今回は冷却:寒冷療法について復習したいと思います。

 

 まず、寒冷療法の生理学的な作用として身体組織温度及び代謝の低下、血管収縮とその後の拡張、感覚受容器の閾値上昇、筋紡錘活動の低下などがあげられます。

 身体組織の温度変化については様々な研究があります。一例として下腿背側面に対するアイシングにおいて30分の持続アイシングで皮膚温の20度程度の低下を認め、この温度変化は冷却をやめて60分経過しても15度程度までしか改善しないそうです。また、筋温に関しては20分程度の冷却で3~5℃程度と皮膚に比べ緩やかな低下を認めるも、元の筋温に戻るには100分以上の時間が必要となるようです。

 細胞の代謝速度については温度が10℃低下するごとに半減し37℃から4℃へと冷却を行った際元の10%程度まで低下するようです。代謝には酸素が必要であるため、代謝の低下によって酸素需要量の減少となります。

 

次に炎症について。

 骨折などで組織損傷が生じると、組織内の血管損傷が起こります。その血管から出血を防ぐため血小板を中心とした凝固反応が始まり、血腫となります。同時にブラジキニンの産生によって血管が拡張され血流の増加に伴う腫脹が生じます。また、このブラジキニンがポリモーダル受容器を刺激することで痛みが発生します。

 血流の増加に伴う発熱や組織温上昇に伴う細胞の代謝速度上昇によって酸素需要量は増大します。しかし損傷した血管周囲には血腫があるため血流は遮断されており、その周囲は低酸素状態となります。これによって細胞の壊死が生じさらなる発痛物質の拡散へと至るわけです。

 

 そのため、寒冷療法によって組織温を低下させることで代謝が低下し、細胞の壊死を防ぎ二次的な組織損傷や痛みの出現を防ぐこととなるようです。

 

更にこれら血管系への作用のほかに、神経・筋骨格系への影響もあります。

 皮膚表面の冷却によってその深部にある感覚・運動神経の伝導速度低下が生じます。痛みを知覚する感覚神経では無髄繊維や大径繊維への影響は少なく小径の有髄繊維であるAδ繊維が影響を受けやすいようです。そのため冷却によって、自由神経終末(特にAδ繊維)の興奮性が低下することで痛覚閾値の上昇となります。ある実験では皮膚温を15℃まで低下させると開始前と比較して痛覚閾値は2倍程度まで上がったそうです。

 組織損傷に伴う痛み刺激は、脊髄後角において介在ニューロンを介しα運動神経を興奮させ、筋収縮を惹起させます。同時にγ運動神経の興奮も起こり筋紡錘の感度が亢進します。そのため、わずかな伸長刺激であっても筋収縮が持続的に起こるようになり、骨格筋内の毛細血管の虚血を生じさせます。虚血状態では発痛物質が産生されます。この一連の流れが痛み→筋スパズム→痛みの悪循環の形成となってしまうわけです。この状態に対してアイシングを行うとγ運動神経などの興奮を抑制でき持続的な筋収縮の抑制となり、痛みの軽減へと繋がります。

 

寒冷療法を行うことで上記血管系や神経系、筋骨格系への作用によって炎症症状の軽減となるわけです。

 

 アイシングの時間については15~30分程度と言われることが多いようですが、運動による皮膚温上昇、室温の変化、アイシングの方法によって変わってきます。禁忌事項もあるため実際に行う際は患者様に合わせて対応していきましょう。